ゼロチチ!〜0から父親になろう〜

2児の子育てに奔走する新米パパの家庭進出ブログです。

食事中、増えろ!静寂の時間。黒田三郎『夕方の三十分』

子育ての現実が凝縮された詩。

黒田三郎の『夕方の三十分』。

僕はこの詩がことのほか好きだ。

 

コンロから御飯をおろす

卵を割ってかきまぜる

合間にウィスキイをひと口飲む

折り紙で赤い鶴を折る

ネギを切る

一畳に足りない台所につっ立ったままで

夕方の三十分

 

僕は腕のいい女中で

酒飲みで

オトーチャマ

小さなユリのご機嫌とりまで

いっぺんにやらなきゃならん

半日他人の家で暮したので

小さなユリはいっぺんにいろんなことを言う

 

「ホンヨンデェ オトーチャマ」

「コノヒモホドイテェ オトーチャマ」

「ココハサミデキッテェ オトーチャマ」

卵焼きをかえそうと

一心不乱のところに

あわててユリが駈けこんでくる

「オシッコデルノー オトーチャマ」

だんだん僕は不機嫌になってくる

味の素をひとさじ

フライパンをゆすり

ウィスキイをがぶりとひと口

だんだん小さなユリも不機嫌になってくる

「ハヤクココキッテヨォ オトー」

「ハヤクー」

 

癇癪持ちの親爺が怒鳴る

「自分でしなさい 自分でェ」

癇癪持ちの娘がやりかえす

「ヨッパライ グズ ジジィ」

親爺が怒って娘のお尻を叩く

小さなユリが泣く

大きな大きな声で泣く

 

それから

やがてしずかで美しい時間が

やってくる

親爺は素直にやさしくなる

小さなユリも素直にやさしくなる

食卓に向かい合ってふたり坐る

 

詩集『小さなユリと』1960昭森出版

 

夕方、ご飯作りに勤しまなくてはならない時間は、育児においてまさに鬼門。

一日の疲労と眠気と空腹で子供は黄昏泣きをしだしたり、不機嫌になったりしがちなもの。

 

親は親で、それをわかっているから手早く料理を済ませようとするが、子供からの「かまってコール」による妨害にあう。

 

一日一緒にいると、この辺で大体限界が来て、「プチッ」と切れてしまうことが多い。

 

「今ご飯作ってるんだからちょっと待って!!」

「ああああああ!なんでこぼすの!!!」

「今急いで作ってるからちょっとまってて!!」

 

何度言ったかわからない。

 

子育てをしていれば、子供も自分も上機嫌な時がいかに貴重で美しい時間か、わかってくる。この詩はそこを本当によく捉えている。

 

現在、娘二歳半・息子十ヶ月。

食事の準備の時間=阿鼻叫喚である。

そして、

食事の時間=戦場である。

しかし、この詩にある通り、「しずかで美しい時間」が確かにある。

全員が穏やかになる時間。

 

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ほんの1分ぐらいだが。

 

おそらく、ユリちゃんは3〜4歳ぐらいだろう。

この詩の中の「しずかで美しい時間」は10分ぐらいはありそうだ。

 

「増えろ!頼む増えてくれ!静寂の時間よ!!」

 

夫婦揃っての、心の叫びである。